身体美学美学的女性評

原節子

2016年1月3日

日本映画の黄金時代を担った女優。
スキャンダルとは無縁の美女という個性。
日本女性の理想像を体現していたとも言われる。
後世の女優でいえば吉永小百合に近いか。

若い頃1
若い頃2

女優として大成したが、円熟期前に引退してしまう。
イメージを守るためだったといわれる。
老いて容姿が衰える前に。

引退後は独身のまま生涯隠遁生活を送る。
故にその後の長い私生活は謎に包まれている。
老いた姿を見せたくないという意思を感じさせる。
若くして引退、生涯隠遁はグレタ・ガルボと同じ。
原はガルボを見ていたのだろうか。

ただ両者には大きな違いもある。
独り身の隠遁生活は同じだが、ガルボは結婚歴あり。
原は生涯独身。最大の違いは引退理由だ。

ガルボは自分の意志、本意ではなかった。
第二次大戦勃発で業界の環境が変化。
仕事を一時的に休止、のつもりだった。

だが再び仕事が来ることはなかった。
やむなく自分から売り込むがそれでも叶わず。
時代の激変で彼女の居場所はなくなっていたのだ。

失意から社会と隔絶していったと考えられる。
結果的に老いた姿を見せることなく生涯閉じる。
全盛期の神秘の美貌だけが後世に伝わる。

原はあくまで自分の意志、本意だった。
続けようと思えば、十分できたであろう。
定年がないから生涯現役の女優も少なくない。

ガルボの美貌は無声映画の中で輝いた。
しかし時代がトーキーに移ると逆風に変化。
表情が少ない、と陰気なイメージができてしまう。
そこで映画会社はコメディ作品に出演させる。
わざわざ彼女が爆笑、笑い転げる場面が設定された。

原の演じた日本女性は清楚で明るい。
人に対してやさしい微笑を浮かべる。
反面爆笑して笑い転げることはない。

確かに日本女性の実像を映している?。
現実の日本女性の多くは、爆笑すると顔が崩れる。
だからなるべく人前では避けようとする。
今時の女優でもカメラに向かって爆笑できる人は少ない。

ガルボは芸術的なグラビア写真を多く残している。
銀幕とは別に美の肖像を。
一方原に芸術性追求のグラビアは極めて少ない。
当時の日本はまだ写真芸術が確立していなかったのか。

山口淑子や京マチ子はハリウッドにも進出した。
原はスター女優なれど、海外進出はなかった。
初主演作は日独合作で、ドイツ公開時訪独もしている。
当時同盟国故の文化交流であり、海外進出とは違う。
(ナチスの幹部と接見もしている。)

だが海外の映画通にはそれなりに知られる存在だ。
小津安二郎監督の名作に出演しているからだ。

小津の作品は黒澤明同様、欧米で評価が高い。
同作品で彼女は、理想的な日本女性を演じた。
その姿は外国人の目にも魅力的に映るようだ。
黒澤明監督作品における三船敏郎に近いだろうか。
訃報が大きく報道されるのもその存在感故。

スター女優ながら生涯独身、晩年は隠遁生活。
彼女はファンの夢を壊したくなかったのだろうか。
理想的な日本女性の体現者として。
私生活は謎のままにしておくべきなのかも知れない。

書籍表紙横顔