身体美学Fhysical Aesthetics

■ 美学的女性評 2014年

浅田真央

2014年4月1日

長髪なびかせた白黒

浅田は十代前半期、山田満知子コーチに師事した。
伊藤みどりを育てた名コーチである。
すなわちフィギアに本格的に取り組み始めた。

山田は浅田を意味深に、こう評した。
「真央は初めて世界に自信を持って送り出せる子。」
自信の意味は、浅田の容姿を指しているからだ。

浅田以前は体型など容姿で、欧米選手に負けている。
山田はいつもそう感じていた、という訳。
だが浅田は手足が長く、容貌も端正。

山田はその資質を欧米的な生活様式の影響と推測していた。
生活の洋風化が進んだ結果と。
さすがの名コーチもその推測については間違っている。

浅田の体型はバレエのレッスンの賜物だ。
幼少期(フィギアより早い)から熱心に習った結果。
一芸に秀でる子は、何事も熱心だろうと想像できる。
欧米人の生活真似しただけで、体型が変わることはない。

山田の浅田評は、他の日本選手にかなり失礼である。
特に一番の愛弟子、伊藤みどりに対して。
自分が育てた史上初の有色人種の世界女王である。
つまり白人の独壇場だった競技に、初めて風穴を開けた。

伊藤以後は東洋人や東洋系の女王が続々誕生する。
しかし歴史を切り開いたのは伊藤。
可能性を示した伊藤の功績はきわめて大きい。

女子でトリブルアクセルを初めて成功したのも伊藤。
技術的にも新風を吹き込んだ。
浅田も伊藤を尊敬し、トリプルアクセルを継承している。

山田は愛弟子、伊藤の価値を当然よく分かっている。
伊藤も山田を信頼しているであろう。
だからおそらく師匠の浅田評に、目くじら立てていない。
余裕で聞き流す度量があると思われる。

笑顔と演技全身像

五輪の結果と原因

浅田はソチでメダルこそ逃したが、劇的ドラマを演じた。
最後に絶不調から一転、渾身の演技で人々を感動させた。
悪夢翌日の復活劇に、内外から賞讃の声があふれた。
よく立ち直った!と。

しかし彼女自身手放しで喜べる結果ではないだろう。
前回の悔しさをバネに、4年間準備してきたはずだ。
なぜ最悪のスタートになってしまったのか。
そのとき完全に自分を見失っていた。

奇しくも伊藤も似たドラマを演じている。
絶頂期のアルベールビル五輪では優勝候補筆頭だった。
ところが本番では不調で、出遅れる。
ジャンプの天才といわれた彼女が、ジャンプでこけて沈む。
それでも土壇場でトリプルアクセル成功させ、本領発揮。
金こそ逃したが、女子史上初の銀メダル獲得。

それまでの伊藤は勝負強かった。
なぜ五輪本番で調子崩したのか。
引退時に堪え難いプレッシャーの大きさを告白している。
当時は他に有力選手なく、伊藤が一身で期待背負っていた。

有色人種初の五輪女王は、荒川静香が達成した。
荒川は伊藤とは立場が違っていた。
荒川も当初天才少女と注目されていた。
なれど好不調の波が大きく、注目度は高まらなかった。
トリノ五輪でも有力な優勝候補ではなかった。

本人もメダルが取れるとは考えていなかった。
だが本番が近づくほどに、流れが彼女に傾いた。
選手生活のピークがぴったり五輪と重なった。
本番ではもはやライバルなく、圧勝した。

浅田の立場は伊藤に近い。
すなわち注目度、期待度はきわめて高かった。
さらにトリプルアクセルの継承者でもある。

昨今国民的ヒロインは久しく不在、死語に近い。
浅田は唯一、当てはまるかも知れない。
スポーツ選手ながら真央ちゃんの愛称で呼ばれる。

柔道界にかつて柔ちゃんの愛称のヒロインがいた。
ところが実態は不評、不満、反感が渦巻いていた。
モデルのマンガのヒロインと違いすぎると。

浅田は文句なく正真正銘のヒロイン。
五輪で輝く姿を多くの国民が期待していただろう。
期待は大きさに比例してプレッシャーとなる。
現時点で知りうる限りでは、それが原因の可能性が高い。

だが土壇場でそれまでの努力が彼女を救った。
あくまで現時点での分析、見立てだ。
別な原因があった可能性も当然ありうる。

五輪後最初の大会、世界選手権で見事な輝きを見せた。
国民的ヒロインにふさわしい。
山田が評したように、日本人に自信を与えたであろう。