身体美学美学的女性評

中森明菜

2013年5月12日

ジャケット1 ジャケット2

素顔は繊細そうで、日本的なしとやかな女性に見える。
表情も日本人的で、笑えば普通に崩れる。
だが一度舞台に立つと、別人のように見る者を圧倒する輝きを放つ。

デビュー前から非凡さを発揮して歌手への道を開く。
当初は無難な可愛いアイドル歌手路線。
彼女の本質ではないがそれでも成功。
しかしそんな次元にとどまる間もなく急成長。
歌詞にもあるように早熟に煌めく個性を開花。

数年後には美しい、さらにセクシー、妖艶と変化していく。
年齢的には二十歳そこそこの小娘なのだが。

菩薩といわれた山口百恵も可愛い路線ではなかった。
だから可愛いというイメージはない。
中森も可愛さを売った期間は短く、中途半端だった。
だが可愛いイメージも定着している。

つまり売らなくても見る側は可愛いと感じた。
笑顔ふりまかなくても、そう感じさせる風情があった。
ときに憂いを含んだ真顔にも強烈に。
それは本人が意図したものではない。
そもそも意識的にできることではないのだ。

可愛い、美しい、セクシーなどのイメージが交錯していた。
かっこいい、というイメージも強くある。
ときに静的に、ときに躍動的にりりしさが現れるからだ。
それもまた可愛さと通じる彼女の特徴である。

いろんな要素を変幻自在に見せ、どれも輝いていた。
振り付けもそれまでのアイドルとは異次元。
随所に姿勢美の要素が現れる。
バレエの素養がふんだんに生かされていた。
彼女自身が美を表現する感性を持っている証だ。

バレリーナでも成功できたのではと思わせるほどに。
いわばボーカル入りのバレエ。あるいは歌うバレリーナ。

ポップスでは元々振り付けが歌の一部ではあった。
誰でも真似できる程度の単純なものとして。
彼女はそれを芸術的な水準に高めた。

決めポーズの一つは荒川静香のイナバウアーに酷似。
当然荒川イナバウアーより時代が先。
イナバウアーの原形はのけ反らないので、もしや明菜の影響?。

姿勢美は表情にも輝きを与える。
静的な表情に、彼女が憧れた山口百恵にも似た情感が漂う。
それは造作を超越した輝きだ。

ケイト・ブッシュはパントマイムで歌を視覚的に表現した。
映像と歌が一体で一つの世界、表現になる。
中森も映像の美と歌が一体化していた。
目で美しいバレエ、耳で絶妙なボーカル。

さらに粋をこらした舞台装置も彼女を引き立てた。
今では派手な演出も珍しくない。
だがすべての美が一体化する例は少ない。
美の本質から外れた巨大衣装や電飾とは次元が違う。

数万円もするDVDが複数出ているが、その価値故だ。
彼女の世界はDVDでなければ完全に体験できない。
ただし根幹はあくまで歌唱力だ。
それがなければ他の要素はすべて無意味になる。

グラビアにもその芸術性、美意識が反映。
情感あふれる陰影は絵画のようでもある。
ミュシャが女優サラ・ベルナール等を描いた絵画を彷彿させる。
(下の画像は実例。)

横顔 正面顔

輝きは鮮烈なほど、持続するのが難しくなる。
内から外から様々な反動が生じる。
反動に翻弄され、命運がつきる例も少なくない。

例えばB・ホリディ、E・プレスリー、J・ジョプリン。
M・ジャクソン、H・ヒューストン等等。
以上は歌手限定だが、それでも枚挙にいとまがない。
他の分野でも同様に見られる。

若くして頂点に上りつめた彼女。
やはりというべきか、その後も順風満帆とはいかなかった。
様々な反動に耐えきれず、絶頂期に幕を下ろす。

彼女の輝きは時代の輝きでもあった。
時代が彼女に最高の舞台を用意した。
彼女はその舞台にふさわしい役割を果たした。

だが時代は変わる。それも悪い方向に。
彼女の絶頂期の後、日本社会も沈滞していく。

歌に感動するような機会が減っている。
安室奈美恵のように歌って踊れるスターもいるが。
人気を博しているのは素人芸の集団。
K-POPもJ-POPと区別がつかないし。

当然ながら彼女も以降、活動機会が減少。
ヒット曲も減った。カバー曲が多くなっている。
悪いとは言わないがもったいない。

成功と才能の代償なのか、私生活も運に恵まれていない。
ここ数年は病気休養が続いている。
今は舞台で輝くより、私生活で輝くことを願うばかりだ。

待望される復帰

休養前からメデイアの露出は少なかった。
だが彼女には価値を知る多くのファンがいる。
新世代のファンが増えることも考えられる。
今後再評価されることもありうる。
それだけ復帰を待望する声は多い。

ティナ・ターナーのように晩年再ブレークした例もある。
ターナーはそのとき還暦をはるかに過ぎていた。
ターナーに比べれば中森はまだ若い。
焦らず当分休むのもいいだろう。

もし復帰するなら改善すべき問題がある。
体型が大きく変化したのも彼女の特徴の一つ。
最初の頃は豊満なくらい良好な発育ぶりだった。
それが歳を重ねるほど細くなっていく。

けっしていいことではない。
体型の変化は容貌も変化させる。
絶頂期以後、やせ過ぎて美を損ねている。
彼女が復活するためには健康的な水準に太る必要がある。
でなければ往年の輝きは戻らないだろう。