中森明菜2013/5
素顔は繊細そうで、日本的なしとやかな女性に見える。
表情も日本人的で、笑えば普通に崩れる。
だが一度舞台に立つと、別人のように見る者を圧倒する輝きを放つ。
デビュー前から非凡さを発揮して歌手への道を開く。
当初は無難な可愛いアイドル歌手路線。
彼女の本質ではないがそれでも成功。
しかしそんな次元にとどまる間もなく急成長。
歌詞にもあるように早熟に煌めく個性を開花。
数年後には美しい、さらにセクシー、妖艶と変化していく。
年齢的には二十歳そこそこの小娘なのだが。
菩薩といわれた山口百恵も可愛い路線ではなかった。
だから可愛いというイメージはない。
中森も可愛さを売った期間は短く、中途半端だった。
だが可愛いイメージも定着している。
つまり売らなくても見る側は可愛いと感じた。
笑顔ふりまかなくても、そう感じさせる風情があった。
ときに憂いを含んだ真顔にも強烈に。
それは本人が意図したものではない。
そもそも意識的にできることではないのだ。
可愛い、美しい、セクシーなどのイメージが交錯していた。
かっこいい、というイメージも強くある。
ときに静的に、ときに躍動的にりりしさが現れるからだ。
それもまた可愛さと通じる彼女の特徴である。
いろんな要素を変幻自在に見せ、どれも輝いていた。
振り付けもそれまでのアイドルとは異次元。
随所に姿勢美の要素が現れる。
バレエの素養がふんだんに生かされていた。
彼女自身が美を表現する感性を持っている証だ。
バレリーナでも成功できたのではと思わせるほどに。
いわばボーカル入りのバレエ。あるいは歌うバレリーナ。
ポップスでは元々振り付けが歌の一部ではあった。
誰でも真似できる程度の単純なものとして。
彼女はそれを芸術的な水準に高めた。
決めポーズの一つは荒川静香のイナバウアーに酷似。
当然荒川イナバウアーより時代が先。
イナバウアーの原形はのけ反らないので、明菜の影響か?。
姿勢美は表情にも輝きを与える。
静的な表情に、彼女が憧れた山口百恵にも似た情感が漂う。
それは造作を超越した輝きだ。
ケイト・ブッシュはパントマイムで歌を視覚的に表現した。
映像と歌が一体で一つの世界、表現になる。
中森も映像の美と歌が一体化していた。
目で美しいバレエ、耳で絶妙なボーカル。
さらに粋をこらした舞台装置も彼女を引き立てた。
今では派手な演出も珍しくない。
だがすべての美が一体化する例は少ない。
美の本質から外れた巨大衣装や電飾とは次元が違う。
数万円もするDVDが複数出ているが、その価値故だ。
彼女の世界はDVDでなければ完全に体験できない。
ただし根幹はあくまで歌唱力だ。
それがなければ他の要素はすべて無意味になる。
グラビアにもその芸術性、美意識が反映。
情感あふれる陰影は絵画のようでもある。
ミュシャが女優サラ・ベルナール等を描いた絵画を彷彿させる。
(下の画像は実例。)
輝きは鮮烈なほど、持続するのが難しくなる。
内から外から様々な反動が生じる。
反動に翻弄され、命運がつきる例も少なくない。
例えばB・ホリディ、E・プレスリー、J・ジョプリン。
M・ジャクソン、H・ヒューストン等等。
以上は歌手限定だが、それでも枚挙にいとまがない。
他の分野でも同様に見られる。
若くして頂点に上りつめた彼女。
やはりというべきか、その後も順風満帆とはいかなかった。
様々な反動に耐えきれず、絶頂期に幕を下ろす。
彼女の輝きは時代の輝きでもあった。
時代が彼女に最高の舞台を用意した。
彼女はその舞台にふさわしい役割を果たした。
だが時代は変わる。それも悪い方向に。
彼女の絶頂期の後、日本社会も沈滞していく。
歌に感動するような機会が減っている。
安室奈美恵のように歌って踊れるスターもいるが。
人気を博しているのは素人芸の集団。
K-POPもJ-POPと区別がつかないし。
当然ながら彼女も以降、活動機会が減少。
ヒット曲も減った。カバー曲が多くなっている。
悪いとは言わないがもったいない。
成功と才能の代償なのか、私生活も運に恵まれていない。
ここ数年は病気休養が続いている。
今は舞台で輝くより、私生活で輝くことを願うばかりだ。
待望される復帰
休養前からメデイアの露出は少なかった。
だが彼女には価値を知る多くのファンがいる。
新世代のファンが増えることも考えられる。
今後再評価されることもありうる。
それだけ復帰を待望する声は多い。
ティナ・ターナーのように晩年再ブレークした例もある。
ターナーはそのとき還暦をはるかに過ぎていた。
ターナーに比べれば中森はまだ若い。
焦らず当分休むのもいいだろう。
もし復帰するなら改善すべき問題がある。
体型が大きく変化したのも彼女の特徴の一つ。
最初の頃は豊満なくらい良好な発育ぶりだった。
それが歳を重ねるほど細くなっていく。
けっしていいことではない。
体型の変化は容貌も変化させる。
絶頂期以後、やせ過ぎて美を損ねている。
彼女が復活するためには健康的な水準に太る必要がある。
でなければ往年の輝きは戻らないだろう。