原節子2016/1
日本映画の黄金時代を担った女優。
スキャンダルとは無縁の美女という個性。
日本女性の理想像を体現していたとも言われる。
後世の女優でいえば吉永小百合に近いか。
女優として大成したが、円熟期前に引退してしまう。
イメージを守るためだったといわれる。
老いて容姿が衰える前に。
引退後は独身のまま生涯隠遁生活を送る。
故にその後の長い私生活は謎に包まれている。
老いた姿を見せたくないという意思を感じさせる。
若くして引退、生涯隠遁はグレタ・ガルボと同じ。
原はガルボを見ていたのだろうか。
ただ両者には大きな違いもある。
独り身の隠遁生活は同じだが、ガルボは結婚歴あり。
原は生涯独身。最大の違いは引退理由だ。
ガルボは自分の意志、本意ではなかった。
第二次大戦勃発で業界の環境が変化。
仕事を一時的に休止、のつもりだった。
だが再び仕事が来ることはなかった。
やむなく自分から売り込むがそれでも叶わず。
時代の激変で彼女の居場所はなくなっていたのだ。
失意から社会と隔絶していったと考えられる。
結果的に老いた姿を見せることなく生涯閉じる。
全盛期の神秘の美貌だけが後世に伝わる。
原はあくまで自分の意志、本意だった。
続けようと思えば、十分できたであろう。
定年がないから生涯現役の女優も少なくない。
ガルボの美貌は無声映画の中で輝いた。
しかし時代がトーキーに移ると逆風に変化。
笑顔が少ないと陰気なイメージができてしまう。
そこで映画会社はコメディ作品に出演させる。
わざわざ彼女が爆笑、笑い転げる場面が設定された。
原の演じた日本女性は清楚で明るい。
人に対してやさしい微笑を浮かべる。
反面爆笑して笑い転げることはない。
確かに日本女性の実像を映している?。
現実の日本女性の多くは、爆笑すると顔が崩れる。
だからなるべく人前では避けようとする。
今時の女優でもカメラに向かって爆笑できる人は稀。
ガルボは芸術的なグラビア写真を多く残している。
銀幕とは別に美の肖像を。
一方原に芸術性追求のグラビアは極めて少ない。
当時の日本はまだ写真芸術が確立していなかったのか。
山口淑子や京マチ子はハリウッドにも進出した。
原はスター女優なれど、海外進出はなかった。
初主演作は日独合作で、ドイツ公開時訪独もしている。
当時同盟国故の文化交流であり、海外進出とは違う。
(ナチスの幹部と接見もしている。)
だが海外の映画通にはそれなりに知られる存在だ。
小津安二郎監督の名作に出演しているからだ。
小津の作品は黒澤明同様、欧米で評価が高い。
同作品で彼女は、理想的な日本女性を演じた。
その姿は外国人の目にも魅力的に映るようだ。
黒澤明監督作品における三船敏郎に近いだろうか。
訃報が大きく報道されるのもその存在感故。
スター女優ながら生涯独身、晩年は隠遁生活。
彼女はファンの夢を壊したくなかったのだろうか。
理想的な日本女性の体現者として。
私生活は謎のままにしておくべきなのかも知れない。